東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)84号 判決
一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決取消事由について検討する。
1 成立に争いのない甲第二ないし第四号証により認められる本願明細書及び図面の記載によれば、本願考案の対象とする「容器」は、「工場などにおいて量産される粉粒体あるいはフレーク状の製品を充填装置によつて多量に充填する容器」(甲第四号証訂正明細書二頁一六ないし一八行)であつて、「容器本体のみならず、投入口および排出口を含めて全体がフレキシブルな構成となつている」(同三頁一六、一七行)ものであり、従前のこの種容器においては、「投入口および排出口はフレキシブルな筒体に形成されていて、これを封止するには、ひもによつて特別に縛り付ける面倒な作業が必要となる。また、フレキシブルな投入口をひもで縛り付けて封止するので、その封止を完全にするため、布蓋を必要とするなど、構造的にも複雑となる」(同三頁二〇行ないし四頁六行)欠点を有していたこと、本願考案の目的とするところは、この種「容器において、その投入口及び排出口を改良することにより、充填作業や空袋の後処理などの取扱いの容易化を図るとともに、機械化も容易に達成し得るようにすることにある」(同四頁一八行ないし五頁二行)こと、そして、本願考案の投入口の改良による効果につき、「充填後は枠部を折り重ねることによりきわめて簡単に密封することができ」(同一一頁一四ないし一六行)と記載されていることが認められる。
右事実と前示当事者間に争いのない本願考案の実用新案登録請求の範囲第一項の記載によれば、本願考案は、投入口の改良に関しては、従前のこの種容器の投入口の構造が有した前示欠点を解消し、前示のとおり「枠部を折り重ねることによりきわめて簡単に密封することができ」る効果を奏する投入口の構造を、実用新案登録請求の範囲第一項(B)において示そうとしたものと認められる。
そこで、右第一項(B)を検討すると、同項(B)には、<1>「投入口体8の開口周縁は、剛体部9aと該剛体部9aを被覆する枠部10、10よりなるフランジ枠9の内周縁に取付けられ」ること、<2>「フランジ枠9の枠部10は折畳み自在な一対の枠部から構成されて」いること、<3>「該投入口体8の開口周縁は、枠部10の内端縁に押し込まれる押え板13によりフランジ枠9に固定され、枠部10の折畳み支点付近では上記フランジ枠9を閉じたとき隙間が生じないよう上記押え板13から露出し枠部10の上面に位置して構成されている」ことが記載されている。この<1><3>の記載によると、本願考案における投入口体8の開口周縁は、押え板13によりフランジ枠9の内周縁に固定して取付けられるとともに、フランジ枠9の枠部10の折畳み支点付近では押え板13から露出し枠部10の上面に位置して構成されるものであり、この構成によつて、フランジ枠を閉じたとき隙間が生じないようになるものとして示されているといわなければならない。しかし、右の記載によつては、押え板13によりフランジ枠9の内周縁に固定して取付けられる開口周縁が枠部10の折畳み支点付近で枠部10の上面に位置するようにするための具体的構成、すなわちフランジ枠9の枠部10、押え板13を具体的にどのような構造とし、開口周縁をこれらの部材にどのように取付ければよいのかが当業者が理解できる程度に示されているものとは認められず、したがつて、右構成と隙間が生じないこととの技術上の関連が不明であるというのほかはない。
2 原告は、「隙間が生じない」とは、「投入口体8の開口周縁が、枠部10の折畳み支点付近で、押え板13と面一(ツライチ)となる」ことであり、この点は、本願明細書の考案の詳細な説明中の記載及び明細書添付図面第五、第六図を参照すれば、直ちに理解できる旨主張する。
そこで、前掲甲第二ないし第四号証により認められる本願明細書の考案の詳細な説明の記載をみると、同説明中には、本願考案の実用新案登録請求の範囲第一項(B)の<1>の記載として前示した点につき、「この投入口体8の開口周縁は、剛体部9aと該剛体部9a全体を被覆するゴム等よりなる枠部10、10と後述する枠部10、10と連接する押え板よりなる開閉用フランジ枠9に取り付けられている。」(甲第四号証訂正明細書六頁七ないし一一行)と記載されており、また、<3>の記載として前示した点につき、「フレキシブルな投入口体8の開口周縁をフランジ枠9に取付け固定するには、第5図、第6図で示すように押え板13、13によつてフランジ枠9の内周縁に押え付けることにより、取り付けられている。なお、この場合、第6図で示すように枢支部において投入口体8の開口周縁は押え板13、13から露出し、枠部10、10の上面に位置しており、このため、フランジ枠9を閉じたとき、隙間が生じない。すなわち、枠部10、10の接合面間に隙間を作らない構成となつている。」(同七頁八ないし一八行)と記載されていることが認められる。
これらの記載からすると、押え板13、13は枠部10、10とは別体であり、これと連接するものであること、枠部10、10の枢支部において開口周縁は押え板13、13から露出し、枠部10、10の上面に位置するものであるとされていることが明らかであるが、前示甲第四号証により認められる本願明細書添付図面(別紙図面)第五、第六図をみると、第五図のA―A断面図である第六図においては、剛体部9aが含まれている枠部10と押え板13とが境界線なく一個の部材として図示されており、8として示されている投入口体の開口周縁は枠部10あるいは押え板13の内部にあるように図示せられ、いずれも右考案の詳細な説明の記載と矛盾して示されていることが明らかである。また、投入口体の斜視図である第五図においては、押え板13が厚みのないものとして示されており、このために開口周縁をフランジ枠に取付ける構成が不明であるばかりでなく開口周縁が枠部の上面に位置する構成も明らかでないといわなければならない。
したがつて、本願考案の実用新案登録請求の範囲第一項の「隙間が生じない」との記載の意味を原告の前記主張のとおりに、また、拒絶理由第一点で指摘するとおりに「投入口体8の開口周縁が、枠部10の折畳み支点付近で、押え板13と面一(ツライチ)となる」ことであると解するとしても、その構成は、本願明細書の考案の詳細な説明に、当業者が容易にその実施をすることができる程度に記載されていると認めることはできず、ひいては、本願考案の実用新案登録請求の範囲第一項には、本願考案の構成に欠くことのできない事項が記載されていると認めることはできない。
3 以上のとおりであるから、本願考案が実用新案法五条三項及び四項に規定する要件を満たしていないとして本願出願を拒絶すべきものとした審決の判断に原告主張の誤りはなく、その他審決にこれを取り消すべき違法の点は見当たらない。
三 よつて、原告の本訴請求を失当として棄却することとする。
〔編註その一〕本願考案の実用新案登録請求の範囲第一項は左のとおりである。
下記条件(A)(B)および(C)よりなる充填装置に使用する容器。
(A) 容器本体1はフレキシブルな容器であつて、この容器本体1の上記にフレキシブルな投入口体8、下部にフレキシブルな排出口体2を備えている。
(B) 上記投入口体8の開口周縁は、剛体部9aと該剛体部9aを被覆する枠部10、10よりなるフランジ枠9の内周縁に取付けられ、前記フランジ枠9の枠部10は折畳み自在な一対の枠部から構成されており、該投入口体8の開口周縁は、枠部10の内端縁に押し込まれる押え板13によりフランジ枠9に固定され、枠部10の折畳み支点付近では上記フランジ枠9を閉じたとき隙間が生じないよう上記押え板13から露出し枠部10の上面に位置して構成されている。
(C) 上記排出口体2は締付け手段を有している。
〔編註その二〕本件に関する図面は左のとおりである。
別紙図面 本願明細書図面
<省略>